大谷能生『「河岸忘日抄」より』
音楽批評家としてだけではなく、菊地成孔との共著、simやmas他ミュージシャンとしての活動も目覚ましい大谷能生が初のソロ・アルバムをリリース。 HEADZ内でスタートする言葉(Gram)と音(Phone)のレーベル、GRAM0PHONEの第一弾作品。 ゲストとして、12月にeast worksよりソロ・アルバム『into the black』をリリースするsimの大島輝之、11月にvectors/HEADZよりueno名義でソロ・アルバム『ハスノス』 を発表したばかりの植野隆司(テニスコーツ)が参加。 ミックスはmasのヤマダタツヤが担当している。堀江敏幸の『河岸忘日抄』(新潮社)の大谷自身による朗読に、自ら作・編曲を手掛けたサウンドをミックスさせ、独自の録音作品を完成させた。 文字で書かれたものを、声に出して人前で読む。 そのときに生まれるいろいろな感情を、もうちょっと正確に把握してみたい、というところから、幾つかの作品を作ってみようと考えました。 書かれた文字の中にはどんな声が含まれているのか。または、含まれていないのか。 朗読と歌唱はどれだけ、どのように違うのか。 文字を声に出すこと、または、声を文字にすることで、何が失われ、何が生まれるのか。 詩を声に出すことは、誰かに唄いかけることではないのか。その誰かとは? こういったことを、録音=再生メディアの存在が音楽流通の基盤となっている現在、 つまり、聴き取ることが不能のままでも、たった一度しか存在しなかった声を、 そのまま反復=記号の領域に刻むことが出来る現在の作品環境において、 あらためて経験してみること。 それによって「言葉」だけでなく、もう一度、「音楽」本体の幹も太くしてゆこうとすること。 こうした作業の手がかりとして、現在、日本で、もっとも素晴らしい散文をお書きになっている堀江敏幸さんの作品を お借りすることが出来たのは、存外の幸せでした。堀江さんありがとうございます。 雨月物語では、山中、西行の唄いかけに答えて、魔道に墜ちた崇徳院が現われますが、 この作品を聴いてくれた人の暗闇に、少しでもあやしいものかげが動いてくれればいいな、と思っています。 2006年11月 大谷能生 原作: 堀江敏幸『河岸忘日抄』(新潮社) 朗読、作曲、編曲、演奏、録音、編集: 大谷能生 Additional player: 大島輝之(E. Guitar)from sim、Veno Tagashi(A.Guitar) from Tenniscorts Mix: ヤマダタツヤ(mas) Mastering: 庄司広光(sara disc) Producer: 大谷能生