鈴木治行『語りもの』
鈴木治行は、今は亡き「逸話的音楽」のリュック・フェラーリの遺志を継ぎ、吉田喜重とゴダールのソニマランガージュ(SON-IMA-LANGUA-GE)を、鼓膜の中で合成 - 進化させる。来るべき聴覚のシネマ、音響のイストワールが、いま遂にその全貌を露わにする。 ― 佐々木敦 現代音楽の作曲家、映画音楽の作曲家、実験的ポピュラー音楽家、リュック・フェラーリの日本への招聘者としての顔を持つ鈴木治行。 『語りもの』は鈴木が1998年からスタートした作品シリーズで、本作の5作で完結した訳ではなく、まだ継続している。ラジオドラマでもなく、朗読に音楽を付けたものでもなく、<音と言葉だけで出来る事>の可能性を追求した作品群であり、【言葉・物語にどんな音楽を付ても「伴奏」と捉えてしまう】聴き手の意識に挑戦するような作品集となっている。鈴木はこの作品の全作曲とテキストの一部を担当している。 『語りもの』は、即興音楽界のベテランと、現代音楽界の若手ホープの混合チームによって演奏されている。 語り手は、かつて女優、「ほとらぴからっ」のメンバーとして活動し、最近ではsimや杉本拓との共演でも有名な佳村萠と、即興シーンでは世界的に高い評価を得ている秋山徹次の二人。 気鋭の批評家/音楽家の大谷能生がアルト・サックスとトモミンで、近年海外での評価も著しい即興ギタリストの今井和雄はクラシック・ギターで参加。 GHOST、エゴ・ラッピンの中納良恵、CALM他のライヴ・メンバーとしても有名な守屋拓之がコントラバスで参加。 チェロの多井智紀はネクスト・マッシュルーム・プロモーションの一員として「佐治敬三賞」を受賞している。 ソプラノで参加する太田真紀は東京混声合唱団に所属し、現代音楽を専門とする。太田とデュエットするヴォーカルの原みどりはスパンク・ハッピーの元メンバーとしても有名である。 『語りもの』は聴き手にまったく新しい音楽体験をもたらし、鈴木治行の優れた才能をより多くの人に知らしめる作品となるだろう。 ●解説:片山杜秀(アルテスパブリッシング刊の『音盤考現学』、『音盤博物誌』が大好評の音楽評論家であり、思想史研究者。2008年より慶應義塾大学法学部准教授。) ●2枚組 Disc 1 1.「陥没 - 分岐」(18:04) 秋山徹次(語り)/太田真紀(soprano)/清水友美(piano)/原みどり(vocal)/河合拓始(keyboard) 2.「沈殿 - 漂着」(13:51) 佳村萠(語り)/今井和雄(guitar)/梶原一紘(flutes) Total Time 32:57 Disc 2 1.「前兆 - 微光」(13:38) 秋山徹次(語り)/太田真紀(soprano)/大谷能生(alto sax)/多井智紀(cello) 2.「伴走 - 齟齬」(14:45) 秋山徹次(語り)/大谷能生(tomomin)/河合拓始(piano) 3.「浸透 - 浮遊」(18:09) 佳村萠(語り)/今井和雄(guitar)/梶原一紘(flute)/清水友美(piano)/守屋拓之(contrabass) Total Time 48:55 作曲:鈴木治行 テキスト:増田康仁/鈴木治行 録音、ミックス & マスタリング:庄司広光(皿disc) プロデュース:内山誠(ホロ響) 鈴木治行(すずき・はるゆき) 経歴 1962年東京生まれ。 作曲をほぼ独学で学ぶ。 1995年、『二重の鍵』(A Double Tour)が第16回入野賞受賞。 1999年、鷺ポイエーシス(広島県三原)に招かれ、映画監督アレクサンドル・ソクーロフ、近藤譲とのシンポジウムに参加。 2000年、映画『M/OTHER』の音楽で第54回毎日映画コンクール音楽賞を受賞。 2000年、サイレント映画にライブで音楽をつけるパフォーマンスを始める。最新作『カメラを持った男』は特に評価が高い。 2002年、リュック・フェラーリの来日公演を企画。翌2003年にも再びフェラーリを招聘し、交流はフェラーリの死まで続いた。他ジャンルとのコラボレーションにも積極的で、これまでにも演劇、美術、映像などとの共同作業を行っている。